「家電」を捨て「IoT」で蘇ったCEATEC

 

いささか旧聞にて失礼。

「夢がない!ワクワクがない!テレビがない!」AV評論家の麻倉怜士氏はこう言ってCEATEC JAPAN 2016を切り捨てた。10月6日CEATEC会場で行われたJEITAセミナーでの発言なので、明らかに主催者や出展企業を意識した発言だね。

先月ベルリンで開かれたIFA(国際コンシューマー・エレクトロニクスショー)では、SONYやパナソニックが画像技術で意欲的な展示をしていたと評価してたから、余計お怒りだったのだろう。

 

映像技術の底力を見せつけたパナソニックとソニー、麻倉怜士のIFAリポート2016(前編)

 

「消費者がワクワクしないCEATECは先がない。特に何だパナソニックは。家電の展示が全くないじゃないか」ともおっしゃってた。

まあこれは仕方ない。麻倉さんにしてみれば、AV展示がないCEATECじゃあ「自分の商売がない」だもんね。

 

しかし麻倉さんの評価とは裏腹に、数字で見れば今年のCEATECは大成功。入場者は14万5千人と前年比+1万2千人。出展社は648社(団体)と前年比+117社。率にすると入場者が+9.1%。出店社数に至っては+22%だ。下降線を辿り続け、SONY、日立、東芝と日本を誇るエレクトロニクスメーカーが次々と撤退していった昨年までと比べれば、まるでラミレス監督率いるDeNAベイスターズじゃないか。

 

家電見本市からCPS/IoT展に一新したCEATEC 2016来場者は、前年比9.1%増

 

確かに会場は来場者が増えていた。ゲームショウとまではいかないが、昨年のガラガラに比べれば熱気が溢れていたね。

でも昨年とは出展も客層も明らかに違っていた。背広の人たちは姿を消しGパンが増えた。ディスプレイはほとんどなく、代わりにセンサーとIoT(Internet of Thigs)だらけ。

 

実は今年、電飾会社に勤める長男と初めて一緒に回ったのだけれど、センサー関係の展示の多さと技術が進んでいることにいたく感動したみたい。名刺交換してはブースごとに担当者と話し込んじゃって、待ってるこっちは手持ち無沙汰。

そういえば「テレビよりもコンサートやイベントがメインの売り上げ」って言ってた。ついにテレビっ子の息子にまで見放されたか…。

 

その後も会場くまなく回ったけど、テレビなんかほとんどない。VR(ヴァーチャルリアリティ)とドローンは2年くらい前からだが、今年はJTB(スマート店舗)、MUFJ(ヴァーチャルアシスタント)、豆蔵(猫モニター)といったこれまでなかった企業が出展したのが大きな特徴だ。

特に麻倉さんにけなされたパナソニックは、透明ディスプレイを始めとするスマート店舗やスマートシティを全面に展示し黒山の人だかり。テレビとか洗濯機とか「家電」と言われるものは影を潜めていた。

 

麻倉さんの言い回しを使わせていただければ「テレビがない!PCがない!でもCPS(Cyber Phisical System)とIoTがある!」。そう、CEATECは家電見本市というポジションを敢えて捨てることで、生き残りを図ったわけだ。

 

世間的にはあまり騒がれていないが、これは相当思い切った決断だと思う。何しろ、CEATECの運営は日本エレクトロニクスショー協会。会長社が日立で理事以下パナ、三菱、NEC、SONYと日本を代表する家電メーカーがズラ~リ。この面々を前に、よく事務方が脱家電を宣言できたものだと感心せざるをえない。

 

そういえば毎年1月に開かれる米の家電ショーCESも今年、運営母体がCEA(Consumer Electronics Association)からCTA(Consumer Technology Association)に名称変更。脱家電宣言をしていた。こちらはまだ韓国や中国メーカーが北米市場を狙ってテレビなど家電の展示していたが、主催者は明らかに来るべき危機に備えて路線変更を模索している。

 

日本の場合、世界における家電メーカーのポジションは韓国・中国勢に押されて明らかに後退している。だからこそいち早く家電に見切りをつけて、次の時代に踏み出すことができたのかもしれない。

 

放送を生業にしてる身からするとちょっと寂しい。ジャンルは違うけど麻倉さんの気持ちもよく分かる。でも「ピンチがチャンス」だという考えを踏襲するなら、放送局も早くテレビから抜け出して、VRとかで見てもらうとか未来に向けたアプローチに踏み出すべきだよね。それを強く感じさせた今年のCEATECだった。