ネット受信料はNHKが全国の放送局から同時配信するのが前提ですよね

7月22日(金)暑い中を総務省まで行き、「放送を巡る諸課題に関する検討会」(第10回)を傍聴。第一次とりまとめ案が出るとあって、傍聴席はほとんど満席。遅れてきた某在阪局の方などは、苦笑いしながらちゃっかり関係者席に着席。でも時間がないとかでほとんど意見交換はなく、「第一次とりまとめ案」発表の後、構成員が一言ずつ発言して終わり。なんだ、つまんねーの。

(読者の皆さんには「第一次とりまとめ骨子(案)」の方がわかりやすいかも)

 

冒頭、高市総務相が「公共放送のあり方、特に受信料のあり方、構造改革について議論を進めてほしい」と挨拶。そうだ、これは放送全体と言いつつ、まずもってNHKの体制を議論する場だったのだ。元はと言えばこの検討会、自民党の「放送法の改正に関する小委員会」(小委員長:佐藤勉国会対策委員長)が昨年9月に出した第一次提言を受けて慌てて設定されたのだけれど、そもそも提言自体が、物議をかもすBPOや民放のあり方は参院選挙後に先送りし、まずNHKのあり方をまとめたものなので、役所もそれに応えなければいけなかったわけ。

 

とはいえとりまとめ案はお役所らしい”気遣い”で、「技術や社会環境が変化したのでこのままではテレビはやばい。放送として視聴者や地域のニーズに応えながら新たなビジネスモデルを確立しろ」みたいな感じの総論から始まり、新サービスや地域情報など一般受けする課題から展開。マスメディア排除原則などの規制緩和は、放送事業者の要望があれば条件付けて考えてやってもいいみたいな上から目線な一方、放送同時配信については権利者に遠慮したのか「関係者からの意見も踏まえつつ、今後検討していくことが必要」と及び腰。

また自民党が興味ない地上波4Kなどはたった3行。大きな諸課題であることは間違いないのだけど、ここは議論する場ではないということか。

 

そして最後に、しかし半分くらいのボリュームを割いて「新たな時代の公共放送」。ずらずら書いてあるが、要点は以下の通り。

1、NHKはインターネットの番組配信を本格的にやること

2、それを踏まえて受信料を国民に公平負担してもらうこと(逆に衛星契約は見直すこと)

3、効率的に受信料取れるように制度を考えること

4、受信料が納得いく額となるように経営の透明性を高めること

 

なんだ、自民党の提言と一緒じゃん。というか自民党の提言も実質的には役所が書いているから同じになるわけだよな。この4つは全部繋がっていて、言いたいことは要は1つ。それは「国民からほぼ100%受信料徴収」ということ。

受信料はこれまで「テレビ受信機」に対して契約がなされていた。テレビを持つことはNHKと契約をする前提なわけ。ところが最近の若い人たちはテレビ持ってない。持ってなければ契約もしようがない。これはNHKにとって死活問題だ。海の向こうでは英BBCがiPlayerというサービスをやっており、受信料を支払えば全てのデバイスで番組の同時配信を視聴できる。逆に受信料を払わなければ罰金もある。NHKはBBCが羨ましくて仕方がない。テレビがなくても受信料の支払い対象になるんだから。営業活動に費用がかからなくなれば料金値下げも可能だし。政府与党だって受信料が税金に近くなればコントロールしやすくなるという思惑が見え隠れする。

 

個人的にはNHKが同時配信をやっていくことは大賛成。権利処理は先導して開拓してもらうことが大切だと身にしみて分かっている。実はフジテレビオンデマンドが地上波番組を配信開始したのが2008年11月。同じ年の12月にNHKオンデマンドのスタートが決まっていたからひと月でも早くというご下命で権利者団体と交渉していた。これ、NHKも同時期に交渉進めていたからギリギリ間に合ったので、僕らだけでは到底無理だった。NHKの社会的使命が放送全体の産業振興に直結するというのが、この業界の特殊な構造である。

 

なので同時配信は是非NHKに頑張ってほしい。しかしNHKは本業として同時配信をやるつもりがあるのか首をかしげる点がある。それが地域制御。これまでNHKは東京放送局の番組を全国に同時配信している。そして今後も東京以外の地方局から配信するつもりはないという(Inter BEE CONNECTED 2015 パネルディスカッションでの発言)。確かに、全ての放送局から配信するのは人員含めて膨大な費用がかかるだろう。しかし各放送局の放送を一旦東京で受けて、そこから地域制御かけて各地に配信するのはすでに確立した技術だ。NHKが配信前提に受信料徴収を考えているなら、同じ地域で放送と同内容が配信で見られなければ説得力がない。またそれを実現してこそ、地域免許である民放の産業振興にも寄与するというものだ。

 

今回、これだけの人と時間を費やしてNHKの放送同時配信と受信料(=ビジネス化)について議論してきたわけだ。NHKはパブコメで意見を言うだけではなく、ぜひ「2020年には各地の放送局から同時配信を実施します」と宣言してほしい。というか、そうでなければネット受信料は払えないよ。